第125回 物忘れと痴呆 ―その治療と対策―

2012年02月04日

成田記念病院 神経内科部長 川畑 信也 第125回 H13.4.27

 物忘れには二つの種類があります。その一つは痴呆疾患の症状で、いろんな物を思い出せなかったり、物忘れをする―これを病的な物忘れ、あるいは痴呆に伴う物忘れと言います。もう一つは年齢に伴って起きる生理的な物忘れで、これは良性の物忘れと言われています。物忘れで問題になるのは年齢と共に起きてくるのか、それとも病気によるものなのかということです。
 年齢と共に起きる物忘れはそんなに心配はいりませんが、痴呆に伴う物忘れが問題になります。痴呆、いわゆるボケとは 1.一度獲得した知識や機能が何らかの原因で低下する 2.獲得した知能や機能が元に戻らない 3.そのために社会生活や家庭生活に支障をきたす― この三つの条件を満たしたときに初めて痴呆と診断されます。
 成田記念病院では5年前から痴呆を心配している人を対象にした「物忘れチェック外来」を始めており、これまでに400人が受診されていますが、3人に1人はアルツハイマー病による痴呆で、10%前後が脳血管性痴呆でした。つまり物忘れを心配なされている人の半数の人が痴呆になっているということが分かりました。
 わが国の痴呆はアルツハイマー病と脳血管性痴呆の二つで9割を占めます。アルツハイマー病は脳の神経細胞が何らかの原因で破壊されるために起き、脳血管性痴呆は脳梗塞、脳出血といった脳血管性障害によってダメージを受けて脳の神経細胞が障害を受けて起きます。
 この二つの病気の予防法と治療法ですが、アルツハイマー病は原因不明のために有効な予防法と治療法のないのが実情です。これに対して脳血管性痴呆は脳の循環を良くする治療によって痴呆を防ぐことが可能です。

成田記念病院季刊誌「おだいじに」No.37より