第146回 口の癌 ~切らないでどこまで治るか~

2012年02月25日

藤田保健衛生大学 歯科口腔外科助教授 日比 五郎 第146回 H15.1.27

 「がんは一般的に切らなければ治らないのだ」といった考えがあります。こうした考えはがん治療に対する長い歴史の中から出ています。
 私の専門分野は、舌、唇、あごの骨といった口のがん全般ですが、がんのタイプとしては、扁平上皮がんが約90%を占めます。
 口腔(こうくう)がんの治療は、以前はひたすら大きく切ることでした。このため、患者さんの顔の形は大きく変わり、大変な苦痛を強いられていました。私はこうした患者さんの治療後の苦悩や苦痛を与えない治療法はないものかと考え、新しい治療法の開発に取り組みましたが、これまでに大きな成果を上げています。
 舌がんの場合、がんに行っている血管に抗がん剤を投与すればよいわけですが、舌がんのがん細胞は顎の下の顎下(がっか)リンパ節、頚部(けいぶ)リンパ節を侵し、肺に転移します。治療としては、舌動脈だけではなく、がん浸潤が予想される所まで細い管を入れて抗がん剤を投与します。その管は数週間入れっ放しにしておきます。こうした治療をしておいて放射線を照射します。
 この治療にはペプロマイシンという抗がん剤1種類を使います。しかし、中にはこの抗がん剤だけでは太刀打ちできない場合があります。そうした場合は、第1週目は抗がん剤・ペプロマイシン、第2週目は強力な抗がん剤と放射線の照射を併用する治療法があります。
  私は、この治療法は世界最強の治療法だと自負しています。
 数年前にドイツで開かれた学会に招かれ、この治療法について発表しました。この学会には世界的に著名ながんの臨床医が多数出席していましたが、大きな反響を呼び、日本のがんに対する治療法も確立したのではないかと思っています。

成田記念病院季刊誌「おだいじに」No.44より