第132回 禁煙をめぐって

2012年02月11日

藤田保健衛生大学 医学部名誉教授 梅田 博道 第132回 H13.11.22

 喫煙者はたばこだけが肺癌の原因ではないと言い訳をします。しかし、喫煙者のこういった言い訳は現在ではまったく通用しなくなっています。
 1964年米国の公衆衛生局が出した報告書「スモーキング・アンド・ヘルス」の中で、たばこと肺癌の因果関係について 1.たばこを吸う人は吸わない人に比べて肺癌になる確率は20倍高い 2.肺癌のリスクは本数に応じて高くなる  3.若い時から吸い出した人は肺癌のリスクが大きい 4.禁煙すると年数に応じて肺癌になる確率は低下してくる・といったことを指摘しています。
 さらに、同衛生局は1972年に2回目の報告書を出しました。第1回目の報告書がどちらかといえば疫学調査による報告であったのに対して、この2回目の報告書はたばこのヤニ、タールの発がん性が病理学的に証明された報告書の内容となっていました。
 米国の公衆衛生局の相次ぐ報告書が出たことで、WHOは「たばこに含まれている発がん物質が健康に悪影響を与えることは科学的に証明されている。たばこ対策は緊急」という声明を出しましたし、たばこが肺癌の原因であるということがほぼ確定しました。
 最近、たばこに対する遺伝子レベルでの研究が進んでいます。たばこに含まれている発がん物質中の活性酸素がDNA(遺伝子)を損傷して癌を発生させたり、癌遺伝子を活性化し、がん抑制遺伝子を欠損させるといったもので、このことを知ったらたばこは吸えたものではありません。
 たばこが止められないのはニコチンに対する身体的な依存、つまり、ニコチン中毒症のほかにたばこを止めると口寂しいという心理的な要件が大きいのです。
 たばこは肺がんだけでなく、いろんな臓器に悪影響を与えます。健康な生活を送るためにも喫煙者は強い意志を持って今すぐにたばこを止めることが大事です。

成田記念病院季刊誌「おだいじに」No.39より