成田記念陽子線センター
従来、広く行われている放射線治療は、主にエックス線を使用して行われています。エックス線はからだに照射されると、からだを通りぬける性質があります。そのため、からだの内部にあるがんを治療する場合、放射線の通り道にある正常な組織はすべて傷つけられてしまいます。
一方で陽子線は、体内で放射線を止めることができ、止まる直前に大きな放射線量を与える特性があります。この特性を利用し、狙った場所で陽子線を止めることにより、まわりの正常組織への影響を最小限におさえて、がんに集中して放射線を与えることができます。
陽子線治療はピンポイントでがんを治療する局所の治療法です。したがって、陽子線治療が向いているがんは、がんが限られた範囲にかたまっている状態です。治療がむずかしいがんは、たくさんの場所にがんがある状態や血液のがんなどで、がんが全身に広がって多発している場合です。がんがかたまっている状態であるかぎり、大きさにかかわらず高い効果があることが、最近知られるようになってきました。
一般的に陽子線治療のよい対象とされるのは、脳腫瘍、耳鼻科系のがん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆管がん、膵臓がん、前立腺がん、整形外科系のがん、転移性のがん、小児のがんなどです。
消化管のがんでは、食道がん、咽頭がんは陽子線治療のよい適応です。胃がんや大腸がん、小腸がんなどは、不向きです。理由として、これらの臓器が不規則な動きをすることや、耐容線量(放射線を照射してもよい限界の量)ががんをなおすのに必要な量より少ないことなどがあげられます。
上記以外のがんでも、ほかに標準的な治療法がない場合、エックス線と比べて陽子線の方がすぐれた効果が期待できる場合や安全に治療できる場合などで陽子線治療の対象になることがあります。
陽子線治療の対象になるかどうかは、すべてのケースで、内科医、外科医、病理医、放射線科診断医など各臓器・疾患の専門医と陽子線に携わる医師で検討会(キャンサーボード)を行い、ほかの治療法もふくめて総合的に判断されます。その結果により、陽子線治療よりも手術療法や薬物療法をおすすめすることもあります。
現在、当院で治療できるがんはこちら。
当院では、IBA社のProteus ONEという陽子線治療装置を使用しています。
Proteus ONEの照射方法はペンシルビームスキャニング方式です。スキャニング方式は新しい照射方法で、マグネットを使用し、陽子線発生装置で発生させた細い陽子線(ペンシルビーム)を走査し、腫瘍の形に合わせて三次元的に照射する方法です。スキャニング方式は、複雑な形状の腫瘍の治療が可能で、周囲の正常組織への影響を抑えることで、副作用を低減することが期待できます。
また、Proteus ONEは強度変調陽子線治療(IMPT)にも対応しています。IMPTは、スキャニング方式の応用技術で、複数方向から照射する陽子線の強さをコントロールし、複雑な形状の腫瘍や正常組織がすぐ近くにある場合にも腫瘍に陽子線を集中させ、腫瘍周囲の正常組織への影響をより少なくすることができます。