第118回 痛みの治療 -我慢しなくてもよい痛み、我慢しなくてはいけない痛み-

2012年01月28日

痛みの治療 -我慢しなくてもよい痛み、我慢しなくてはいけない痛み-
浜松医科大学 名誉教授 池田 和之 第118回 H12.9.29

 私は痛みは人生最後の問題だと考えています。痛みは感じなくても、また感じすぎても危険なのです。痛みは本人が訴えなければ他人には分かりません。また、訴えても他人にはどの程度痛いのは分かりません。痛みを我慢するとますます痛みを強くしてしまいます。
 痛みがある場合は躊躇することなく、「ペインクリニック」か「痛み抑制科」といった痛み専門の診療科のある医療機関で治療を受けるべきです。
 痛みを我慢するとどうして体によくないか。最近の研究で分かってきたことは、痛みを放置しておくと難治性、つまり、治療しても治らない痛みを作り上げてしまうということです。痛みを我慢していると自分で痛みをがんのように増殖させ、結局慢性痛になり、過敏状態になってしまいます。
 例えば、帯状ほうしん後神経痛ではカーテンが動いても痛く、風が当たってもいたいというようにどうしようもない過敏状態に陥ります。こうした状態が長く続くと体の中では、脊椎の中の神経細胞の遺伝子が変わってしまい、痛んだ痛みは記憶として残り、痛みの原因がなくなってもまだ痛いという気持ちになってしますのです。
治療としては痛みで興奮している交感神経をなんらかの方法で抑制する、つまり交感神経をブロックすることです。これを神経ブロック療法と言います。
 がんの痛みに対する治療としては 1.夜眠れるようにする 2.安静時の痛みをとる 3.ちょっと体を動かすと痛むという痛みを取る 4.完全に痛みを取り、社会復帰さす -です。
 神経痛のあるときは痛みを断ち切ることです。強い痛みがある時のモルヒネは中毒にならないということが分かってきたので、難治性の神経痛に積極的にモルヒネを使用したり、神経ブロック療法などするようになっているのが痛みに対する最近の治療法です。

成田記念病院季刊誌「おだいじに」より