第126回 大抵の舌癌は切らないで治る

2012年02月05日

藤田保健衛生大学 歯科口腔外科助教授 日比 五郎 第126回 H13.5.14

 舌がんの新しい治療法を私たちは開発し、大きな成果を上げています。その治療法は制がん剤の動脈投与と放射線治療の併用療法です。
 実際の治療はまず、ペプコマイシンを頸内に持続投与します。その後、放射線治療を1週間に5回、最大6週間照射します。すると、舌がんはものの見事に消滅しています。従来の治療法だと、手術しなければなりませんでした。手術だと、手術後の後遺症が残り、そのため、社会復帰したとしても患者さんには大きな苦しみが残ります。
 しかし、私たちが行っている治療法だと、手術は一切しないわけですから、後遺症はほとんどありません。首のリンパ節に転移したがんには治療は難しいというのが医学界の常識になっていますが、そうしたケースでも私たちの開発した治療法は効きます。まだ多くの先生方は半信半疑ですが、効かせるように工夫して治療をしており、治るようになりました。
 この治療法はほとんどのがんに良く効きます。しかし中にはこの治療法が効かないケースもあります。そうした場合は他のいくつかの制がん剤を組み合わせて用いると大変大きな効果を現しました。
 私たちはこの治療法を「動中化学放射線同時療法」と名付け、20年前から舌がんを始め、すべての口腔がんの治療に導入していますが、治療成績は飛躍的に良くなりました。また、関連した学会で積極的に発表しており、大きな反響を呼んでいます。
 がんを含む口の中の異常は、鏡を見れば自分で見つけることができます。従ってよほどのことがない限り自分で早期に異常に気づくことができます。ところが、早期の段階で異常に気づく人が少ないのが実情です。見た目がおかしい、触るとシコリがあって固い― といった異常が3週間経っても治らない場合はすぐに診療を受けてください。

成田記念病院季刊誌「おだいじに」No.37より